世界最高の鍼メーカーはセイリンであると思う理由
坂口です。
最高の鍼メーカーはどこか。
最高の鍼メーカーと言えばセイリンに決まっている。
セイリンは静岡県清水市に工場を構える日本の鍼メーカーだ。
自社で製造から品質管理まで一貫生産を行い、日本一、いや世界一のクオリティの鍼を作り続けている。
その数、年間3億本強。ちょっと想像がつかない。
鍼灸師たるもの、一度はその現場を見ておかなければならない。というわけで先日、静岡にある本社工場に行ってきた。
そう、世界最高の鍼メーカーであるセイリンは工場見学を無料で行っている。
「どうぞ誰でも見ていってください、隠すことは何もありませんよ」という自信の現れなのか。期待に胸がふくらむ。
カポス(品川)からセイリンは片道170km
セイリンが世界最高である理由
鍼の製造は主に4つの工程に分かれている。
①原材料の仕入れ・匡正(きょうせい)
②鍼先・鍼体の加工
③鍼柄(しんぺい)の取り付け
④パッケージ・滅菌
まず、鍼の原材料である鋼線の買い付け。ここからすでにセイリンは違う。
加工前の鋼線を直接買い付けているのだ。寿司屋が市場へ直に魚を仕入れに行くようなものだろうか。鋼線は大きな糸巻に巻かれた状態で仕入れられる。
そのままでは鋼線に巻きグセがついているので、まっすぐにする加工を行う。これを匡正(きょうせい)と呼ぶ。
もちろん、匡正を請け負う業者はいる。しかしセイリンは自社でやってしまう。
これだけでなく随所に「誰かに任せてなんかいられない。納得いく製品を自分たちで作る」というセイリン・スピリットを感じた。
髪の毛と同じ太さの鍼が、本当にある
「これは匡正前の鋼線なんですがね、0.1mmのものです」
今回の案内役であるセイリンの須之内さんが長さ30cmほどの鋼線を手渡してくれた。
うっかり机に置くと見失ってしまうほど細い。よく鍼の太さを「髪の毛くらい」と表現するが、本当に髪の毛ほどの細さしかない。
0.1㎜の鍼は、もちろん世界最細。この細さの鋼線を加工してクオリティの高い鍼を作れるメーカーは、現時点でセイリン以外にない。
今まで患者さんに「鍼は髪の毛くらいの太さなんですよ」と言っていたが、カポスで主に使用している鍼は太さ0.16mmのもの。正直、太めの髪の毛くらいある。
これからは言い方を改めて「鍼ってどれくらいの太さなんですか?」と聞かれたら「太めの髪の毛くらいですよ」と言わなければならない。
その時にすかさず「本当に髪の毛くらいしかない鍼もありますけどね、セイリンというメーカーが作っていますよ」と付け足すようにしよう。
鍼の先はとがっていない
「匡正(きょうせい)」によりまっすぐに加工された鍼は、鍼先の加工と表面の仕上げに進む。
あまり、と言うかほぼ知られていないが、セイリンの鍼先はわずかに丸みがつけられている。
どれくらいかと言うと3μm(ミクロン)だ。ミクロンと言われてもピンとこない。
1μmは0.001mm。人間が肉眼で識別できる限界値は0.1mmだと言われているので、眼で見てもわからない。
こちらの写真を見てほしい。セイリンの公式HPからお借りした。
右の「JSP」と書いてある方が、鍼先に3μmの丸みがついているタイプだ。
「丸みとか言ってるけど、それってもう、とがってるんじゃ」と思ったあなた。するどい。
私もセイリンが用意してくれた写真を見ながら「3μmて、それもうほぼとがってるじゃん」と思ってしまった。もちろん表情には出していない。
しかしそんな私の気持ちを察したのか、須之内さんが「わずか3μmですがね、多くの鍼灸師の先生方にテストしてもらったところ使用感に大きな差が出るそうなんですよ」と説明してくれた。特に内出血が減るそうだ。
「鋭い方が良い」と考えられていた鍼先業界に、あえて3μmの丸みをつけるという逆転の発想。世界最高の鍼メーカーであるセイリンのこだわりを感じる。
鍼先の加工を終えると、ニ度の鏡面仕上げの後にシリコンコーティングを行う。
肉眼レベルでは加工前と後の見分けはつかないが、顕微鏡で見ると加工前の鍼の表面には細かな傷がたくさんついている。それを二度の鏡面仕上げで文字通りツルツルにし、とどめにシリコンでコーティングする。
ここまでやっている鍼メーカーが他にあるだろうか。
鍼柄(しんぺい)の形成には1トンの圧がかかっている
セイリンの鍼はプラスチック部分の鍼柄(しんぺい)と、金属部分の鍼体(しんたい)で出来ている。
鍼体を鍼柄の型となる機械にセットして、高温で溶けたプラスチックを一気に射出(しゃしゅつ)する。
その圧力、1cm平方あたり1トン。1トンて。またしても想像を超える数字が飛び出した。
これくらいの圧力をかけないと、プラスチックが均一に形成できないそうだ。
なおgoogleで「1トン どれくらい」と検索すると、クロサイがヒットした。
完璧な衛生管理
組み立てが終わった鍼はパッケージされたのち箱につめられ、最後の工程である「滅菌」へすすむ。
ここにもセイリンのこだわりがつまっている。まず、鍼の組み立てはすべてオートメーション化されており人間が触ることはない。
徹底した管理により、微生物の数は30cm立方あたり10の6乗というオーダーの衛生状態を実現。この数字にピンとこないが、参考までに手術室は10の5乗、製薬のラインは10の4乗ほど。
つまり、かなり厳しい基準をクリアしていることがわかる。
”空気は通すがウイルスや細菌は通さない” 特殊な滅菌紙でシールした後は、エチレンオキサイドガス(EOG)で滅菌。この作業により製造から4年は鍼の無菌状態が保たれる。
最高の鍼の、ただ一つの欠点
ミクロン単位の仕上げ、徹底した衛生管理、さらに全ての行程をトレースしてトラブルに迅速に対応できる仕組み…あらゆる点において徹底されたセイリンの鍼づくり。
鍼灸師なら、この価値がわからないはずがない。
ただ最高の鍼にも、一つ欠点がある。
それは鍼管が太いこと。
以前こちらの記事で各メーカーの鍼管の内径を調べたことがあったが、他のメーカーと比較してもセイリンの鍼管は太かった。
オーナーの栗原も「理想の鍼をメーカーに特注したい!」という記事で書いているが、鍼管が太いと刺鍼の精度が下がってしまう。逆に精度の高い刺鍼ができると、施術の効果も高い。
それを助けてくれるのが鍼管だ。
世界最高の鍼メーカーであるセイリンに、極細鍼管が作れないはずがない。私はそう思っている。
この鍼管の太さが唯一のネックになり、カポスはセイリンの鍼を使用していない。ちなみにパイオネックスというシールの鍼は花粉症治療で大活躍している。
セイリンの魅力はまだまだ書き足りない
今回の見学、実はまだまだ書いていないことがある。
- 外気をシャットアウトするクリーンルーム
- 滅菌の過程でおこるコールドポイントの問題をいかに克服したか
- 鍼の使用期限は3年だが、製造から4年経ったものを出荷時と同じ品質検査にかけてもクリアする
- 衛生状態をチェックする試薬を自分たちで作ってしまった話
挙げればキリがない。
今年で創業40年。これからもセイリンは世界最高の鍼メーカーであり続けるだろう。
最後になりましたが、工場を案内していただいた須之内さん、プレゼンしていただいた井上さん、関係者の皆様に、この場を借りて御礼を申し上げます。
本当にありがとうございました。
セイリン清水工場前にて(本社から徒歩5分)。案内役の須之内さんと。
はりきゅうルーム カポス(鍼灸師)
本物の鍼を追究するために大阪からやってきました。
患者さんに「鍼って本当に効くんですね」と言ってもらえた時に、鍼灸師としてのやりがいを感じます。
好きな言葉は「勝ちに不思議の勝ちあり 負けに不思議の負けなし」 趣味はサウナ。
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