科学的鍼灸を語るために欠かせない3つの視点
坂口です。
パッと読む見出し
・鍼灸の効果は疑われている
・科学的って何?
・視点1:そもそも鍼である必要はあるか?
・視点2:その鍼の効果に意味はあるか?
・視点3:「見える化」の限界
・科学化は鍼のみに可能なことを追究することから
鍼灸の効果は疑われている
「鍼灸って本当に効果あるんですか?」と質問されたことのない鍼灸師はいないでしょう。
こう言われていい気分になる鍼灸師はいませんが、世間の素直な評価だと思います。
なぜこの質問をされるのかと考えた時に「鍼灸はなぜ効くかわかりにくい」という点があります。科学が発展した現代にあって、なぜ効くのか説明が難しい鍼灸は効果を疑われて当然です。この問題を乗り越える方法の一つが、科学的な視点を持ちこむことです。
この取り組みを「科学的鍼灸」と呼びます。
科学的って何?
「科学的鍼灸」と聞くと、言葉の響きで「なんか効果ありそう」「嘘ついてなさそう」という印象がありますが、そもそも「科学的」とは何を意味するのでしょうか。
簡単に言うと、「科学的」とは「誰でも再現できる方法」のことです。
達人だけができる超絶テクニックにも素晴らしい価値がありますが、科学的ではありません。条件さえ同じならば、誰でも同じことができる。この方法が「科学的」なのです。
よくかん違いされますが、実験を行うこと、データを取ることが科学的なのではありません。あくまで「誰でも再現できる方法」の一つとして、実験やデータが必要なのです。
これに関しては、森博嗣の「科学的とはどういう意味か」が分かりやすくオススメです。
「鍼灸の効果を科学的に証明しよう」と考えた時に、「論文を書く」という方法があります。論文を書き、その信ぴょう性が認められれば、鍼灸への疑いが一つ晴れたことになります。しかし、その際に欠かせない3つの視点があります。
視点1:そもそも鍼である必要はあるか?
鍼灸の論文を読んでいると「これって、鍼使う必要あるのかな?」と思うものがあります。
例えば、腹部に鍼をすると胃の運動が抑制される、というものです。胃の運動を抑制したいなら、鍼刺激よりも綿棒などを使った皮膚刺激の方がより効率が良いことが証明されています。
「そもそも鍼を使う必要性があるか?」と考えることも、科学的な視点です。「鍼ありき」で論を展開するのは、科学的な視点とは言えません。
視点2:その鍼の効果に意味はあるか?
鍼による身体への影響は研究が進んでいて、かなり正確にわかっているものもあります。「鍼をすれば局所の血流量が増加する」もその一つですが、患者さんに説明しても「それにどんな意味があるの?」と思われてしまいます。
患者さんの関心は「私の症状が改善するかどうか」です。鍼をした局所の血流が改善したかどうかは気にしていません。
だからと言って患者さんの感覚だけを頼りにすると、科学からは大きく遠ざかってしまいます。「患者さんの感想」は主観なので、たとえ効果があっても「たまたま」である可能性を捨てきれません。
「鍼をすれば局所の血流量が増加する」という研究の成果は価値あるものです。しかし、同じくらい「実際の臨床ではどうなるのか?」という大きな視点が必要です。
また、鍼灸師は患者さんの気持ちに応えつつ、「治療の効果に再現性があるか?」と問いかけ続けています。そうしなければ、次に同じ症状の患者さんを診る時に困ってしまいます。
医療であるためには、イチかバチかで鍼をするわけにはいきません。再現性のある方法で、常に結果を予測しながら治療を行うべきです。
視点3:「見える化」の限界
鍼灸の効果を科学的に証明するために、「見える化」という方法もあります。
「見える化」とは、目に見えない漠然としたものを、数値など客観性のある指標に置きかえて可視化しよう、という試みです。これならば、鍼灸の効果を客観的に評価できそうです。
しかし、「見える化」にも限界はあります。なぜなら、見えているのはほんの一面に過ぎないからです。先ほどの「鍼を打てば局所の血流量が増加する」というのも、鍼の効果の一面です。これだけで、鍼の効果すべてが説明できるわけではありません。
効果をもたらした要因が他にもあったのでは?と疑問が残ります。科学的な手続きをとるならば、こうした疑問に次々と答える必要があります。すでに多くの実験と検証が行われていますが、いまだ「鍼はなぜ効果があるのか」という問いに科学は答えられていません。
科学化は「鍼のみに可能なこと」を追究することから
科学は、人間の感情を考慮してくれません。むしろ、感情と現象を切り離すところに科学の意味があります。科学はいつでも、誰にでも平等です。
人間の幸せのために生まれた科学が、今日をつくっていると言ってもよいでしょう。鍼灸も科学的になることで、さらに患者さんの健康に役立てるはずです。科学の視点によって再現性のある鍼灸が生まれ、安定した効果を生み出すことができます。
ただ、そのためには、「鍼のみに可能なこと」を強く意識する必要があります。
かつては結核や感染症も鍼の適応症状でした。しかし、それは他に治療の方法が無かったからです。
今の世の中で、鍼が必要とされる状況を明確にする必要があります。科学的な視点を活かすのはそれからでも遅くはないでしょう。
私たちは臨床を通じて、必要とされる鍼灸を追いかけています。つまり「鍼灸でなければ治らなかった」と思って頂くよう、努めているのです。
はりきゅうルーム カポス(鍼灸師)
本物の鍼を追究するために大阪からやってきました。
患者さんに「鍼って本当に効くんですね」と言ってもらえた時に、鍼灸師としてのやりがいを感じます。
好きな言葉は「勝ちに不思議の勝ちあり 負けに不思議の負けなし」 趣味はサウナ。
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