症状を聞き出して満足していたあの頃。そして、今だから言える問診の本当の役割。
坂口です。
今回は「問診」の話です。
問診=治療に必要な情報を聞き出す行為
だと思って鍼灸師をやっていました。
その常識が覆ったのは、カポスに入ってすぐです。
ある時、先輩の問診を見学しました。上達のヒントを得ようと、「ふむふむ、頭痛の患者さんにはこういう質問したらいいんだな」と先輩の質問をメモする私。どんなことを聞いて頭痛のタイプを絞り込んでいるのか、参考にしようと思っていました。
私のメモ帳が、箇条書きにされた質問項目で埋まりました。
問診が終った後にそのメモを見てもらうと、先輩が一言。
「うーん…そうじゃないんだよね~」
さらに
「そもそも、問診は治療に必要な情報を聞き出してるだけじゃないからね~」
と言うのです。
えぇ…じゃあ一体、問診では何をしているのか???
考えているうちに、ふとあの出来事を思い出しました。
治療の効果を感じてくれない患者さんの話
カポスに入る前は鍼灸接骨院に勤めていました。そこにYさんという患者さんがいました。Yさんは、症状が明らかに改善しているのに「変わってない」と言うのです。
当時の私は、Yさんの症状を改善しようと、
・ある時は残った症状をトコトン追いかけ
・またある時は、治療のビフォーアフターを感じてもらえるように写真を撮ってみたり
・またまたある時は、「変化してますよ!」とハッキリ伝えたり
と、あれこれ工夫して、治療の効果を感じていただこうとしました。成果が出ているように見えるのに、最後まで効果を感じていただくことはできませんでした。できることは全てやりました。
その頃の職場はベッド同士がカーテンで仕切られている環境でした。当然、会話はつつ抜けです。その状態で、何度も「変わってない」と言われるのは精神的にこたえました。
コップの水、”もう”半分? ”まだ”半分?
Yさんの一件があってから「自分の技術が未熟なんだ」と思うと同時に、「でも、まったく変化がなかったわけではなかった。最初は片足を引きずりながら歩いていたのが、普通に歩けていたのだから…」とも思っていました。
そんな時、とある鍼灸師のブログを目にしました。
その内容は「改善したところに注目する患者さんの方が、改善していないところに注目する患者さんよりも治りが早い」というものでした。
「あなたはコップに水が半分入っているのを見て、”もう”半分”だと感じますか?それとも”まだ”半分”だと感じますか?」という例え話を読んで、
「そうだよなぁ、あの患者さんは変わってないところに注目していたもんな」
と結論づけ、Yさんについて考えるのをやめてしまいました。
しかし、大きな間違いでした。それに気が付いたのはその数年後。つまり、カポスで働くようになってからです。
問診はマッチングの場
あの頃の私は、Yさんに「日常生活のどういう場面で困っているのか」と聞いていませんでした。患者さんの症状を、自分の技術に当てはめることしか考えていなかったのです。生活の背景を想像することもせず、治療の効果を押しつけていた…。
完全に独りよがりでした。
気づきがあってから「問診はマッチングの場」だと考えるようになりました。
現在では「来院までの経緯やカポスを選んだ理由」「現在、お困りの症状や不安に思っていること」を丁寧に聞くようにしています。
患者さんの悩みと鍼灸師としてできることを共有することが、問診の役割だと今は考えています。お互いの認識がズレている時、施術者も患者さんも「なんか違うな」と違和感を感じます。
その違和感の正体がわからず、こちらが一方的に「魅せ方」や「説得力」で強引に軌道修正しようとすれば溝ができてしまいます。
わかってもらえないと苦しい
哲学者の中島義道はこう言っています。
私は「わかってもらえない」苦しみは、人間の苦しみのうちで第一級のものだと信じております。
ー中島義道「私の嫌いな10の言葉」より
わかってもらえないのは苦しい。
患者さんは「私が困ってるのはそこじゃない!」「なんでわかってくれないの!」と苦しい。
施術者も「効果は出てるじゃないか!」「どうしてわからないんだ!」と苦しい。
こうした不幸を防ぐためにも、問診では治療に必要な情報を聞き出す(悪く言えば尋問する)のではなく、方向性の共有(マッチング)をした方が良いのです。
患者さんの求めるものと、こちらの提供できるものが嚙み合わなければ、「他の鍼灸院や施設を探して頂く」という選択肢もあるのです。
…
歴史に「もしも」はありませんが、もしもYさんに「どんな時に困ってますか?」と聞いていたら…結果は違ったかもしれません。
はりきゅうルーム カポス(鍼灸師)
本物の鍼を追究するために大阪からやってきました。
患者さんに「鍼って本当に効くんですね」と言ってもらえた時に、鍼灸師としてのやりがいを感じます。
好きな言葉は「勝ちに不思議の勝ちあり 負けに不思議の負けなし」 趣味はサウナ。
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