3)整動鍼®︎の誕生
鍼灸と活法の比較
常識で基本だと思っていたことが、次々に覆されました。活法は私の臨床スタイルを大きく変えたのです。
理論もひっくり返りました。鍼灸師である私にとって理論のベースは経絡(けいらく)でした。患者さんの症状を分析する上でも、治療点(ツボ)を決める上でも拠り所としていました。その経絡を碓井流活法では全く使わないからです。
経絡というのは、鍼灸学では「気の流れるルート」と定義され、このルートの循環を正常化させることが自然治癒力を高めると考えられています。大まかなイメージでは、身体の中を流れる流体を滞りなく流れるように手助けすることが鍼灸です。
活法では、このように身体を一つの流体として観ることはほとんどありません。活法が観るのは「動き」です。骨、筋肉、内臓、そして心の動き。それぞれには本来持っている動きの幅があります。この動きの幅が狭くなってきたとき、身体に不調が出てくると考えます。活法においては、自由に動けないことが不健全であると考えているわけです。
整理すると、鍼灸では「流れ」、活法では「動き」に着目するわけです。言葉にすると区別がしづらいかもしれませんが、診察方法で比較すると大きく異なります。例外もありあすが、鍼灸は患者さんを静止した体勢で診察し、活法は動作中を診察します。
鍼灸の多くは、骨と筋肉などの運動器の影響をできるだけ避けるように、活法は運動器の影響をあえて浮き彫りにさせるように考えているのです。
この違いの背景には、鍼灸では内臓を整えれば骨や筋肉は正常に働くと考え、活法では骨や筋肉が正常に機能すれば内臓も整うと考え、両者の思想の違いがあると思われます。こうした比較や分析は正しくないかもしれませんが、違いを理解して頂きやすいように、あえて線引きをしています。
鍼灸 | 活法 | |
対象 | 内臓 | 筋肉 |
目的 | 形 | 勢 |
方向 | 収束 | 変化 |
診察 | 静止 | 動作 |
評価 | 流れ | 可動性 |
効果 | 遅効 | 即効 |
作用 | 点 | 面 |
道具 | 鍼 灸 | なし |
患者 | 受け身 | 参加 |
発祥 | 中国 | 日本 |
鍼灸師のDNA
活法を実践の場で使えば使うほど、鍼灸の長所と短所が見えてきたのです。ここで、鍼灸と活法を使い分けるのも一つの方法です。しかし、私は鍼灸と活法の長所を併せ持つ方法がないか模索することにしたのです。
活法にできて鍼灸にできないはずがない。
根は鍼灸師。鍼灸師としてのプライドが私が動かしました。活法を誰よりも理解できる鍼灸師でありたいと思うようになり、「鍼灸×活法」という新ジャンルを開拓することを、自分自身に課したのです。そこには、まだ誰も見たことがない景色があるはずだと信じて。
一番最初に試したのは、活法で作用させるポイントに鍼をすることでした。鍼をするためには、ミリ単位でポイントを決めなければなりません。実践で段階的に試していくと、ポイントが絞れるところが出てきました。これまでの鍼灸では使わなかったポイントに鍼をすることができたのです。
これが「鍼灸×活法」の世界かというと全く違います。この段階で得られたのは、新しいツボを鍼灸師目線で活法から盗んだに過ぎません。これは明らかに鍼灸の延長上でした。しかしながら、次のステップを踏み出すきっかけを掴むことはできました。
基本を裏切る
そもそも、鍼灸というものは症状のあるところから離れたポイントから治療することが得意です。経絡を利用してターゲットなる部位の流れを改善させることができます。このような遠隔から作用させる発想は鍼灸師には自然なことです。鍼灸師の立場からいえば、症状ある局所だけを刺激して改善できる症例はごく一部です。
活法に出会う前から、ツボに鍼をするとその局所も離れた筋肉も緩むことは知っていました。同じ経絡上でもツボによって緩む位置が違うことも経験上わかっていました。
こうした作用を利用すると、肩に触れず、頚に触れずに治療が行えます。そのメカニズムは、流れの改善によるものだと解釈していたため、その変化は流れの経路にそうように確かめていました。
しかし、よく観察すると、筋肉は経絡にそって満遍なく緩んでいるわけではないのです。経絡から外れたポイントが極端に緩むことがあるのです。この関係は、連続性のない点と点の関係のように見えました。
検証を重ねていくうちに、経絡とは全く別系統の反応システムがあることに気がついたのです。あえて経絡を無視したことで見てきた身体に潜む系統。鍼灸師としての基本を裏切っているわけですから罪悪感のようなものがありました。そのいっぽうで経絡という固定観念が外れる気持ちよさもありました。
動きをコントロールするツボ
経絡を無視して新しい反応系統を探しているうちに、動きの調整をしていることに気がつきました。患者さんの反応を観ると、明らかに動きが改善しているのです。ある時から、筋肉のコリを取っているのではなく、動きを回復させた結果としてコリがなくなっていると考えるようになりました。
鍼灸師の多くは、コリのような筋肉のこわばりがあると動きを制限してしまうと考えていると思います。活法の視点が入ってきたことで、動きが改善した結果としてコリが消えると考えるようになりました。私が経絡とは別に探していたものは「動きをコントロールする系統」だったのです。
それから、私の意識はガラリと変わりました。患者さんが肩こりを訴えても、コリを対象にしなくなりました。コリと動きの関係を考え、動きを改善させることに集中するようになったのです。
触診では動きを邪魔しているポイントを探します。そして、そこに鍼をします。動きを邪魔しているのは、症状のある部分と釣り合いを取ろうとしている部分です。動く時、必ずバランスは崩れます。むしろバランスが崩れることによって動き始めることができるわけです。そのまま、身体が崩れてしまわないのは、その瞬間ごとに均衡を保とうとするメカニズムがあるからです。このメカニズムは、静止した状態では姿を現さず、動いたときだけ姿を現します。
限りなく活法
私なりの「鍼灸×活法」の回答が得られました。それは「動きをコントロールするツボ」です。身体の問題点を動きをヒントに導き、動きを改善させることで、筋肉のコリや痛みに対応していきます。動きの改善とコリや痛みの消失は同時に起こるため、患者さんがこの順番に気がつくことはありません。鍼灸師が見ても、説明しなければこうした着眼点の違いには気がつかないでしょう。
痛みやコリが同じでも、動作パターンによって使うツボが変わります。つまり、この方法は「位置×動作」によってツボが決まるのです。
この鍼灸は、活法の長所をほとんど含んでいます。鍼灸でありながら活法なのです。活法を習得した鍼灸師のみが可能な手法です。これを「古武術鍼法」と名付けることにしました。古武術の専門家でない者が、こうしたネーミングをするのは勇気が必要でした。しかしながら、活法は古武術の裏技であること、その活法に大きな影響を受けたことを考えると、もっともふさわしい名前です。
その後、「整動鍼®︎」と名を変えより一般的な技術へと発展しています。これから多くの仲間と理論と症例をシェアすることによって、さらに新しい発見へとつがなって行くことは間違いありません。
★つづく≫花粉症のツボ発見